破産し免責された債権は時効にかからない? その場合の抵当権の登記の抹消方法について。
不動産に抵当権の設定登記がされていても、被担保債権が時効により消滅すれば、抵当権も消滅しますので登記を抹消することができます。
では、被担保債権が時効にかからない場合はどうでしょうか。
実は、主債務者が破産して免責されている場合には、このようなことが起こるのです。
では、その場合に抵当権の登記を抹消するにはどうしたらよいのか――今回は、そんなお話です。
どのような事例か
例えば、このような事例です。
ある日、自分が親から相続した土地の登記簿を見たら、知らない抵当権がついていた。
詳しく見てみると、どうも親は自分でお金を借りたわけではなく、Aさんという人の保証のためにその土地を提供したようだ。
もっとも、抵当権が設定されたのは15年ほど前のようだ。
親からも特にこの話は聞いていなかったし、何らかの事情で登記がそのまま放置されているのかもしれない。
そうだとすれば、既にAさんの債務も時効で消滅しているだろうから、この抵当権も抹消できるはず――そう考え、司法書士・弁護士に相談し抹消手続のための準備を始めました。
そうしたところ、思わぬ事実が発覚しました。
Aさんは11年前に自己破産をし免責許可を受けていたのです。
さて、何が問題となるのでしょうか。
※このケースのように、通常の(連帯)保証人のように自らは債務を負わないが、他人の債務のために担保を差し出す人を「物上保証人」といいます。この例では、お金を借りたAさんが返済できなかった場合に、債権者が申し立てれば、物上保証人としてこの人の土地が競売にかけられることになります。
問題点
債務者が破産していると何が問題なのかというと、物上保証人が債務の時効消滅を主張できるかどうかが変わってくるのです。
通常の債権の場合
ご存じのとおり、債権は、消滅時効期間(原則は10年)を経過した後に当事者が援用すれば、時効により消滅します。
上記のような事例でも、債務者が破産していない通常の場合であれば、物上保証人は消滅時効を援用することで抵当権を抹消させることが可能です。
免責された債権
これに対し、破産手続で免責された債権は、時効により消滅することがありません(最高裁1999年(平成11年)11月9日判決)。
言い換えると、免責された債権は、いつまで経っても消えない債権なのです。
「いや、待てよ。そもそも免責された時点で債権が消えるのでは?」とお思いの方もいるかと思いますが、そうではありません。
よく「破産で借金がチャラになる」といいますが、法的には債権が消えるわけではないのです。
少し詳しくいうと、破産手続における免責を受けた場合の債権は、消えるのではなく、「訴訟や強制執行によって強制的に請求することができなくなる債権」に変わるのです。
その結果、債権者も取り立てることができなくなりますので、債務者にとっては借金が消えたように感じる、というだけなのです。
(この「請求できない債権」という不思議な状態について、なぜそうなるのか、法的な理由はここでは割愛します)
したがって、元の債権(借主にとっては債務)は「請求できない債権(債務)」のまま残り続けることになり、また上記のとおり時効で消えることはありません。
そして、この理屈は、その債権が抵当権の被担保債権であっても変わりません(最高裁2018年(平成30年)2月23日判決)。
20年経てば抹消できます
そうすると、物上保証人としてはいつまでも抵当権の登記を抹消できないことになりそうですが、結論からいうと、20年経過すれば抵当権が時効消滅しますのでご安心ください。
これを理由に登記を抹消することができます。
あれ?時効にかからないのでは?とお思いの方もいるかと思います。
分かりにくいですが、免責された債権の場合、債権は時効で消滅しませんが、抵当権そのものが時効で消滅し得るのです。
通常は、
被担保債権が時効で消滅した→抵当権も消滅した
という理屈で抵当権を抹消しますが、この場合は、
抵当権そのものが時効で消滅した
という理屈で抹消します。
実は抵当権そのものにも時効があり、民法では次のとおり定められています。
民法第167条(債権等の消滅時効)
1 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
抵当権は第2項の「所有権以外の財産権」に当たりますので、20年間行使しなければ時効で消滅します。
ただし、この規定は通常は使われることがありません。
なぜなら、債権の方が時効期間が短い(原則10年)ため、被担保債権の時効消滅を主張すれば事足りますし、通常は、債務者や抵当権の設定者(物上保証人)は次の規定により抵当権の時効を主張できないからです。
民法第396条(抵当権の消滅時効)
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
被担保債権が残っているのに、抵当権自体が消えてしまうのは不合理ですので、このように定められています。
民法第396条はどうなる?
そうすると、前述のように物上保証人が抵当権の時効消滅を主張することは、民法第396条によりできないと考えられそうです。
しかし、この点について前述の最高裁判例(最高裁2018年(平成30年)2月23日判決)は次のように述べています。
ア 民法396条は,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ,時効によって消滅しない旨を規定しているところ,この規定は,その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することとなるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。
イ そして,抵当権は,民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである。
(中略)
ウ したがって,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当である。
(下線筆者)
物上保証人が抵当権自体の時効消滅を主張することは、通常は民法第396条によりできませんが、被担保債権が免責されている場合には396条は適用されない、と判断されています。
まとめ
他人の債務の物上保証人となった人は、その他人(債務者)が破産し免責されている場合には、被担保債権の時効消滅を主張することはできません。
もっとも、抵当権を実行し得る時から20年を経過すれば、抵当権自体の時効消滅を主張することで、登記を抹消することが可能になります。
民法第167条第2項により抵当権自体が20年で時効消滅するということは、知っていても、前述のとおりまず使うことがありません。
これを適用しなければならないという珍しい事例の紹介でした。