敷地の二重使用問題とは? ~ある日あなたのマンションが違反建築物に!
(※写真と記事は無関係です)
24日の産経新聞朝刊で、敷地の二重使用に関する事件の記事がありました。
東京都杉並区の大規模マンション敷地内に戸建て住宅が新築され、マンションが建築基準法の規定を満たさない違法建築となっていることが23日、分かった。区は、強制的に建物の除却(撤去)などができる「是正命令」を出す可能性もあるとして戸建て用地を販売した業者とマンション住民に警告。住民は「違法建築になると知りながら住宅を建てた」として不動産業者などに住宅の撤去などを求める訴訟を起こしている。
(※昨日28日に判決が出ましたね)
敷地の二重使用問題(二重敷地問題ともいいます)については昔から多くの訴訟が起こされていますが、法制度上、現在も解決していない問題の一つです。
敷地として使用していた土地に新たに建物が建てられたことにより、もともとあった自分の建物が違反建築物になってしまう――巻き込まれてしまった当事者としては「何でこんなことがまかり通ってしまうんだ!」と言いたくなるような問題ですが、この問題を事前に防ぐことは難しいのが現状です。
なぜこのような問題が起きるのでしょうか。
敷地の二重使用問題とは
・容積率とは
多くの場合、この問題は容積率の制限に関わる問題なので、以下この点に絞って解説します。
容積率とは「建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合」(建築基準法第52条第1項)のことで、ざっくりいうと「敷地面積に対して、建物の延べ床面積が何%あるか」という数字です。
各地の都市計画によって場所による容積率の上限が定められており、これにより敷地の大きさに対してどの程度の大きさの建物が建てられるかが規制されています。
例えば容積率300%の規制がある地域ですと、200㎡の土地には延べ床面積が600㎡までの建物しか建てられないことになります。
簡単にいうと、仮に土地の全面に建物を建てる場合には3階建ての建物が建てられることになります。
半分(100㎡)にだけ建物を建てて残りを駐車場にする場合は、6階建てまでOKです。
・敷地の二重使用とは
さて、前述の例のように
- 容積率制限は300%
- 敷地は200㎡
- 半分(100㎡)にだけ建物を建てて残りを駐車場にする
という場合には、簡単にいうと6階建て(延べ床面積600㎡)の建物が建てられます。
この場合、6階建て(延べ床面積600㎡)が建てられるのは、当然ながら敷地が200㎡あることが前提です。
そこで、6階建ての建物を建てた場合には、駐車場部分(100㎡)が空いていても、これ以上建物を建てることができなくなります。
では、何らかの方法で土地を分割するなどして、今度は駐車場部分(100㎡)のみを一つの敷地として新たな建物を建てようとしたら、どうでしょうか。
容積率制限は300%なので、目いっぱいまで建てれば3階建ての建物を建てられそうな気がします。
しかし、建築基準法では「一敷地一建物の原則」といって、一つの敷地には一つの建物しか建てられないと定められています。
そうでなければ敷地を分割していくらでも建物を建てることができるので、容積率制限の意味がなくなってしまいますよね。
この例では、駐車場部分(100㎡)は既に6階建ての建物の敷地として使用されています。
そのため、ここに新たに3階建ての建物を建てようとすると、この部分を二つの建物の敷地として二重に使用することになってしまいますので、新たに建物を建てることはできません。
…できないはずなのですが、現状ではこれができてしまうのです。
なぜこの問題が起きるのか
それでは、なぜ敷地の二重使用ができてしまうのでしょうか。
建物を建てるためには、その構造などが建築基準法例に適合しているかの審査を受けたうえで、適合しているとの確認(建築確認)を事前に受けなければなりません。
当然、その審査では敷地についても審査されます。
しかしこの審査では、容積率の点についてはあくまで「その敷地にその建物が建てられるか」という観点でしか判断されません。
その敷地が既に別の建物の敷地として利用されていることは審査の対象外となっているため、考慮されない(というより考慮することができない)のです。
したがって、新たに建てようとしている建物が、その敷地(駐車場部分の100㎡)との関係で容積率制限をクリアしている限り、建築確認を出さざるを得ないのです。
もちろん、建築確認を行う方もこの事実を見過ごしているわけではありません。
建築確認を行う側としては、既にその敷地が別の建物の敷地として使用されていることから申請を取り下げるよう行政指導を行っています。
しかし、行政指導には法的な強制力がないため、申請者がこれを無視した場合に対抗する手段はなく、他に違法な点が無い限り建築確認は出さざるを得ないのです。
また、建築確認は地方自治体の建築主事または指定検査確認機関(指定された民間団体)が行っていますが、後者が審査を行う場合はその地域の団体ではないことも多く、そもそも敷地が二重に使用されていることに気づかないこともあります。
敷地が二重に使用されるとどうなってしまうのか
元の建物は違反建築物に
こうして新たに建物が建ってしまうと、元の建物はどうなるのでしょうか。
前述の例では、元に建っていた建物(6階建て)の方について見てみると、駐車場部分はもはやその敷地として使えないため、元の建物の敷地は100㎡しかないことになります。
そうすると、100㎡の敷地に延べ床面積600㎡の建物が建っていることになりますから、容積率は600%です。
したがって、容積率制限に違反した建物ということで、建築基準法上違法な建物(違反建築物)になってしまうのです。
そうなると、この建物について増築や大規模の修繕などを行うことができなくなります。
増築や大規模の修繕を行う際などには建築確認を受けなければなりませんが、容積率制限に違反した状態では建築確認が下りないからです。
(建替えは可能ですが、その場合新たな建物は敷地が100㎡しかない前提でしか建てられません。)
また、違反建築物となったとしても直ちに取り壊されるわけではないのですが、敷地を200㎡確保して適法状態に戻すなどの措置をとるよう是正措置命令を受けることがあります。
是正措置命令に従わない場合には罰則もあります。
さらに、このような違反建築物となってしまえば売ることもできません。
違反建築物であることを隠して売ってしまえば、買主から契約不適合責任(瑕疵担保責任)として契約を解除されたり損害賠償請求を受けたりすることになります。
新しい方の建物は?
一方で新たに建てた建物の方はどうかというと、100㎡の敷地に延べ床面積300㎡の建物が建っているわけですから、新しい建物の方は適法ということになります。
対策はないのか
土地所有者によって土地が適法に分割されて(されたことにして)新しい建物の建築確認申請が行われる限り、現行法のもとではこれを防ぐ手段がありません。
そのため、(特に容積率制限いっぱいに建物を建てる場合には)建物の敷地は必ず自分の所有地として確保しておくことが唯一の対策となります。
なお、そもそもこの問題が起こってしまうそもそもの原因は、前述の例でいえば、新しい建物の審査の際に「その敷地が既に別の建物の敷地となっているかどうか」を考慮することができないという点です。
建築確認の審査で土地の民事上の権利関係を考慮できないのは仕方ありませんが(そこは最終的に裁判所が判断すべき点ですので)、過去に申請された敷地となっていないかどうかについては、何らかの方法で審査上考慮することができるよう、審査制度を変えていく必要があると思います。