【借地】【借家】 賃料増額・減額請求とは

仲見世商店街(浅草寺)のニュースでも話題ですが、借地借家法では、当事者は一定の場合に賃料の増額または減額を請求することができます。

東京の名所の一つで訪日外国人にも人気の浅草寺(せんそうじ)=台東区浅草=表参道に続く仲見世商店街が今、家賃をめぐる騒動に揺れている。土地と建物を所有する浅草寺から突如、これまでの約16倍に当たる値上げが提示されたという。値上げされれば、「廃業する店が出てくる可能性もある」と関係者。商店街側は「減額のお願いを含め、寺側と話し合いたい」としている。

仲見世商店街振興組合によれば、各店が家賃値上げに関する寺側の意向を知ったのは9月。10平方メートル当たり月額1万5千円だった家賃を、同25万円に値上げすると提示された。

家賃引き上げ16倍?! 東京・浅草寺の仲見世商店街に迫る“危機”(産経ニュース・2017年10月28日より)

契約の原則に従えば、いったん契約で賃料額を決めた以上、それを後で変更することは当事者双方が合意しない限りできません。

しかし、土地や建物を長いこと貸して(借りて)いると、経済状況の変化により賃料相場が変わり、今の契約上の賃料が周辺の相場に比べておかしなことになってしまうことがあります。

このような場合、上記の原則に従えば、借主にとっては不相当に高い賃料を支払わなければ追い出されてしまうことになったり、逆に貸主にとっては長期間不相当に安い賃料しかもらえない(しかも貸主から契約を解除することは非常に難しい)ということになったり、いろいろと不都合な事態が生じ得ます。

そこで、このような事態に備え借地借家法では、一定の場合に限って例外的に賃料の増額・減額請求権を認めています。

増額・減額請求権が認められる条件

1.今の賃料が「不相当」であること

増額・減額請求権が認められる条件は、借地借家法第11条第1項(借地の場合)および第32条第1項(借家の場合)に定められているとおり、契約上の賃料が「不相当となった」ことです。

これだけではアバウトですのでもう少し条文を詳しく見ますと、次の3つの例が挙げられています。

① 土地・建物に対する租税その他の公課・負担の増減により不相当となった場合
② 土地・建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により不相当となった場合
③ 近傍類似の土地・同種の建物の賃料に比較して不相当となった場合

とはいってもこれらは連動することが多く、通常は②の事情があれば①③の事情も認められるでしょう。
例えば、インフレやバブルの影響で不動産価格が急騰(あるいは急落)した場合や、市街地再開発などによって土地の価格が上昇した場合などが挙げられます。

また、建物特有の問題としては、予期できない損壊や建築関連法規の改正により、大幅な改修工事が必要となったような場合が挙げられます。

ともかく、①~③の事情により今の賃料が「不相当」だといえれば、賃料の増額・減額請求権が認めらます。

(ただし例外があります。当事者間で「一定期間増額請求を行わない」という特約を結んでいた場合には、その期間は増額請求ができません(第11条第1項ただし書き・第32条第1項ただし書き)。
また、建物の定期賃貸借(定期借家)の場合で、増額・減額請求権を行わない旨の特約を結んでいた場合には増額・減額請求はできません(第38条第7項))

2.「不相当」かどうかをどう判断するのか?

ところで、今の賃料が「不相当」かどうかはどのように判断するのでしょうか。

この制度は、当事者が納得して結んだ契約を一方的に変更させるものですので、認められるためにはそれなりの事情が必要です。
抽象的にいえば「適正な賃料に比べて不合理なほど高くor安くなってしまった」ということなのですが、そのハードルは高いです。

なぜなら、まず、不動産の査定に関わったことのある方ならお分かりかと思いますが、そもそも不動産の「適正な賃料」を求めるのが非常に困難だからです。
周辺の、直近の取引事例をまとめて平均値を出せばOKというわけにはいきません。ひとつひとつ違いますからね。

鑑定方法が複数あり、どれを採用するかによって結果は変わってきますし、そのそもどの鑑定方法を採用すべきかの見解も固まっているわけではありません。
そのため専門家である不動産鑑定士でも、不動産の価格の評価に比べ、賃料の評価は非常に難しいのです(と聞きました)。

また、仮に適正な賃料が算出できたとして、それに比べてどのくらい高ければ(安ければ)不合理だといえるかの基準はありません
20%とか30%ともいわれますが、結局は諸事情を総合考慮して判断することになります(賃料が固定資産税額を下回ってしまったように明らかな不合理な事例でない限り、結局はブラックボックスなのです)。

そうはいっても、後に述べるとおり話合いで合意できなければ訴訟になりますので、訴訟では何とかしてこれらを判断しています。
しかし、上記の事情から、賃料増額・減額請求訴訟では結果が読みにくいのが現状です。

増額・減額請求の手続

請求方法には特に制限がありません。口頭でもOKですが、通常は内容証明郵便で増額・減額の請求書を相手方に出します。
この時点で具体的な金額を明示する必要はありません。

話合いによって合意に至らない場合には、まずは裁判所に調停を申し立てなければならず、いきなり訴訟を起こすことはできません(民事調停法第24条の2)。

調停でも合意に至らなかった場合には訴訟を起こすことになり、訴訟で今の賃料が不相当だと認められれば、判決によって適正な賃料が定められます。

請求が認められた場合の効果

増額・減額請求が正当な場合(今の賃料が不相当である場合)、法律上は、その請求が到達した時点から、今の賃料が適正な賃料に変更されます

とはいっても、適正な賃料が決定するまでには時間がかかるのが通常ですから、それまでの間の賃料の支払いはどうしたらよいのでしょうか。
借主が増額請求を受けている場合や、借主が減額請求をしている場合には、賃料が決まるまでの間、借主はいくらの賃料を払えばよいのか分かりません。

この場合、借主は「相当と認める額」を支払えばよいとされています(第11条第2項・第32条第2項)。
とはいっても借主が勝手に「オレは1円が相当だと思う」とか言ってもダメで、それでは賃料不払いで契約を解除されてしまいます。

何が相当かについてはいろいろと裁判例もあり判断が微妙なのですが、よほどの事情がない限り従前の賃料を支払っていれば大丈夫でしょう。

そして、いずれ適正な賃料が決まった際にはそれが増額・減額の請求時までさかのぼるわけですから、仮に従前どおりの金額を払っていたのであれば差額が生じています。
どこかの段階(調停の前、調停、訴訟での和解協議)で話合いがまとまれば差額の処理についてもその中で協議しますが、判決となった場合は、足りなかった(または払い過ぎた)分の差額は、それぞれ相手方に年10%の利息を付けて支払うことになります。