一度成立した契約は、勝手に取りやめることはできません(契約の拘束力)。

しかし、法律で定める一定の場合のほか、契約で定めた要件を満たす場合には事後的に契約を解除することができます。

今回は、売買契約を解除できる場合のうち、法律の規定による解除(法定解除)について説明します。

 

契約の解除とは

契約の解除とは、当事者の一方的な意思表示により、契約の効力を遡及的に消滅させる(契約が初めからなかったのと同じ状態になる)ことをいいます。

解除は、契約または法律の規定により解除権を有する場合に行うことができます(民法540条1項)。

解除により、各当事者は、未履行債務(契約上の義務のうちまだ履行していないもの)については履行する必要がなくなる一方、既履行債務(既に履行したもの)については原状回復義務を負います(履行前の状態に戻す必要があります。民法545条)。

※なお、解除と同様の効果を持つものとして「取消し」(民法による詐欺、錯誤の場合や、消費者契約法に基づく場合)がありますが、ここでは割愛します。

 

解除できる場合

前述のとおり、解除をすることができるのは、契約または法律の規定により解除権を有する場合に限られます。

法律の規定により解除権を有する場合

  • 債務不履行解除(民法541条、542条)
  • 契約不適合責任(瑕疵担保責任)(民法562条~)
  • 売主が宅建業者である場合のクーリング・オフによる解除(宅建業法37条の2)

契約により解除権を有する場合

  • 手付解除(民法557条)
  • ローン特約による解除
  • 買戻特約(民法579条)

その他

  • 合意解除(解除契約)
    ※厳密には、合意解除は上記の「解除」とは区別されます。

 

法律の規定による解除(法定解除)

まずは法律の規定による解除(法定解除)について。
代表的なものを以下に説明します。

債務不履行解除

相手方に債務不履行(契約上の義務を履行しない・履行できない場合など)がある場合には、契約を解除することができます。

当事者は、相手方が契約上の義務を履行しない場合(履行遅滞といいます)には、相当な期間内に履行するよう催告したうえで(※)、相手方がその期間内に履行しなかった場合には契約を解除することができます(民法541条)。

※契約書において、特約で催告を不要とする例もあります。

また、相手方の契約上の義務が履行できない場合(履行不能といいます)や、相手方が履行を拒絶する意思を明確に表示した場合などは、上記の催告は不要で直ちに契約を解除することができます(民法542条)。

なお、契約を解除した場合でも相手方に損害賠償を請求できます(545条4項)。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)による解除

契約不適合責任(旧法では瑕疵担保責任)とは、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに売主に生じる責任です。

ただ、2020年(令和2年)施行の改正民法により契約不適合責任は債務不履行責任の一種であると位置づけられ、解除の要件は前記の債務不履行解除の要件に従うことになりました。

説明の便宜上ここで項目を別立てしましたが、内容は債務不履行解除と同じです。

※なお、2020年(令和2年)3月31日までに締結された契約の場合は、旧民法が適用されます。

旧民法570条、566条では、売買目的物に隠れた瑕疵(欠陥など)があり、これにより契約の目的を達することができない場合には、買主は、その事実を知ってから1年以内であれば売買契約を解除することができるとされていました。

宅建業法によるクーリング・オフ

最後に、宅建業法に基づく解除(クーリング・オフ)について。

宅建業法37条の2によれば、次の要件を満たす場合には、買主が売買契約を解除することができるとされています。

  • 売主が宅建業者であること
  • 買主が宅建業者でないこと(宅建業法78条2項)
  • その宅建業者の事務所等以外の場所で売買契約を締結したこと
  • 法定の告知書(宅建業法施行規則16条の6)を交付してから8日以内であること
  • 対象不動産の引渡し・代金支払いがともに完了していないこと

 

売買契約の解除②に続きます。