隣の家から我が家が丸見え?! 目隠しの設置義務について
隣の土地で新しい家の建築工事が始まっているが、その位置関係からすると、隣の家の2階の窓からうちの家のリビングが丸見えになりそうなので、窓に目隠しを設置するよう要求できないだろうか――という相談を受けることもあります。
家と家との間隔が狭い住宅密集地では大きな問題ですね。
最初から周りに家が建っていたのであればともかく、新たに隣にそのような建物が建つことなど予想はできません。
今まで開放的な景色だったのに、それがふさがってしまうばかりか、向こうからこちらが丸見えになってしまうとなると落ち着いてくつろげませんね。
まして、隣に立つのがマンションなどの集合住宅であれば、より多くの視線を浴びてしまいそうです。
では、新たに家を建てる際に、隣の家の様子を見下ろせるような窓を付けることが許されるのでしょうか。
許されるとしても、目隠しの設置などを請求することはできないのでしょうか。
さらに、この請求はどちらからできるのでしょうか。目隠しの設置義務はどちらにあるのか。
法律ではどう定められているか
建物の構造や設備について定めている法律といえば、まず建築基準法があります。
しかし、窓と目隠しの点については、建築基準法には規定がありません。
この点については民法に以下の規定があります。
民法第235条
第1項 境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
第2項 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
要するに、隣地との境界線から1m未満の場所に、隣地(宅地)を見通すことができるような窓またはベランダを設置する場合には目隠しを付けなければならない、という内容です。
「他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側」と定められていますので、塀やフェンスなどである程度視界が遮られていれば、通常は1階の窓やベランダは問題とならないでしょう。
また、高い位置に取り付けられた採光用の窓などは、普通に生活している分にはその窓から隣地を見通すことができないような高さ・大きさであれば、問題となりません。
なお、第2項ではその1mの測り方が規定されていますが、測り方は要するに下図のとおりです。この図で測定される距離が1m未満である場合、建物を建てる者はその窓・ベランダに目隠しを設置しなければなりません。
どのような目隠しが必要になるのかについては規定がありませんが、裁判例では、隣の宅地を見通すような視界を遮るのに必要・十分であるかどうかという観点で判断されています。
窓であれば、曇りガラス等にしたうえで「はめ殺し」にしなければなりません。通常の引違い窓・片引き窓のような引き窓であれば、開ければ見えてしまうからです。
ベランダであれば、ある程度の高さの目隠しを設置することになります。樹脂(プラスチック)製やアルミ、ステンレスなど金属製の目隠しが要求されます。
既にコンクリートで手すりがある場合には、その上に設置することになります。
なお、いわゆるサービスバルコニー(エアコンの室外機を置くためなどのバルコニー)の場合も目隠しの設置が必要とされた例もありますので注意が必要です。
窓の場合もベランダの場合も、要求される高さは建物の位置関係によります。床からの高さが1.2mだったり、2mまでの目隠しが必要となることもあります。
目隠し設置の請求権はあるのか
以上のように民法では、建物を建てようとする者に対して一定の場合に目隠しの設置を義務付けています。
そこで、敷地を見られるようになる側は、建物を建てようとしている(あるいは既に建てた)側に対して目隠しの設置を請求することができます。
最終的に訴訟になった場合は、例えば、
「被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物に設置された窓のうち、別紙建物図面記載の●階の●の窓に、それぞれ縦●センチメートル、横●センチメートルの金属製または樹脂製の目隠しを設置せよ」とか
「被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物の●階の別紙図面●に表示されたベランダの別紙施工図●に記載された位置に、それぞれ縦●センチメートル、横●センチメートルの金属製または樹脂製の目隠しを設置せよ」
のような請求となります(実際にはもう少し複雑になります)。
どちらが請求できるか
先ほどの民法の規定を読むと、もともと家を建てていた方が、新たに家を建てる方に請求できるように読めます。実際に起こる紛争も多くはそうです。
しかし実際には、目隠しの設置義務は建物を建てようとしている方だけでなく、既に建物を建てた方にもあるとされています。
そこで、隣り合った建物の窓・ベランダが両方とも境界線から1m以内にある場合には、双方に設置義務が認められます。
実際に、もともと住んでいた方が新たに建てた方を訴えたことで、逆に新たに建てた方から訴え返される(法律用語で「反訴」といいます)こともあります。
最後に
家やマンションを新しく建てる際には、以上のような目隠しの点も考慮に入れる必要があります。
通常は設計者がこの点を踏まえて問題なく設計していますが、隣地所有者や周辺住民からいつクレームを受けるか分かりませんので、販売会社や施工会社においてもこの規定に注意しておく必要があります。
ところで、民法ではこの235条を含む、209条から238条までの規定が「相隣関係」として定められています。
この相隣関係、つまりお隣さんとの関係は基本的には「お互い様」の考えのもとに相互に譲り合う精神が重要です。
そのため民法も相隣関係については最低限の規定しか定めておりませんし、また規定の解釈もこの観点からなされます。
法律に定められているからといって何でもかんでも請求できるわけではありません。形式的には法律上の条件を満たしていても裁判で請求が認められないこともあります。
相隣関係の問題は、法律の規定があるからといってすぐに法的手段によるのではなく、まずは当事者間でしっかりと話合いの場を持ち、相互に譲り合って問題を解消する方策を考えていくことが重要です。