「正本」と「謄本」の違いは? 本来の意味と実務での用語法の違いについて。

役所への提出書類などに「原本」「写し」「謄本」「抄本」「正本」「副本」といった指定がされることがありますが、これらはどのような文書を指すのでしょうか。

ネットなどで少し調べれば用語の意味を知ることはできるのですが、それでも、法務担当者の方から「調べてみたけどよく分からない」という相談を受けることがあります。

それはなぜか。
実は、申請等の実務の現場では、これらの用語が本来の意味とは異なる意味で使われていることが多いからなのです。

例えば「謄本」。この用語の本来の意味は「写し」(つまりコピー)という意味ですが、実務ではその意味では使われず「認証謄本」を意味します。

また「正本」は、謄本の一種と説明されることが多いですが、複数ある原本のうちの一つ、を意味することもあります。

ところが、このような実務での用語法についてはなかなか解説されていないようです。

そこで今回は、原本、写し、謄本、抄本、正本、副本といった用語のもともとの意味に加え、実務の現場においてはどういう意味で使われているのか、詳しく解説します。

結論

以下、本文が長くなりますので最初に簡単に結論をまとめておきます。
後にそれぞれの詳細について説明します。

原本とは

もとのオリジナルの文書のこと。

写しとは

原本をコピーしたもの。

謄本とは

本来の意味は「写し」のことですが、実務では、役所が発行する認証謄本を意味します。

抄本とは

本来の意味は「一部の写し」のことですが、実務では、役所が発行する認証抄本を意味します。

正本とは

次の2つの意味で使われます。本来の意味は1の方です。

  1. 「写し」のうち原本と同一の法的効力を有するもの。実務的には、ひとまず役所が正本として発行した文書だと覚えておけば問題ありません。
  2. 申請書や申立書などの原本が複数ある場合で、そのうち提出先の役所に提出する分のこと(それ以外を「副本」といいます)。

特に1の意味で使う場合、手続などに必要な書類が謄本(認証謄本)なのか正本なのか、事前によく確認しましょう。

 

原本と謄本(写し)

では、それぞれの詳細について見ていきましょう。

まずは原本と謄本(写し)からです。

文書は、まず「最初に作ったもの」と「それを複製したもの」に大きく分かれます。

前者を「原本」といい、一般的には「作成者が一定の内容を表示するため、確定的なものとして最初に作成した文書」と説明されます。
要は文書のオリジナルのことです。ボールペンのインクや、朱肉の顔料が染み込んでいることが多いですね。

後者は通常「謄本」または「写し」といいます。原本を複製したものです。
現代では「コピー」と同義だと考えてください。

※まだコピー機がなかった自体には、書類を複製するときには手書きで書き写していました。
その名残で、現在でも複製物のことを「写し」と呼んでいます。

結局、謄本=写し=コピーということになります。

 

「謄本」「抄本」の本来の意味

謄本とは(本来の意味)

上記のとおり、「謄本」は写し(=コピー)を意味します。
ちなみに、一般的な定義としては「原本と同一の文字、符号を用いて原本の内容を完全に写し取った文書」と説明されています。

謄本の「謄」は「写す」という意味ですから、謄本の本来の意味はこうなります。

しかし、実際には「謄本」という用語はまずこの意味では使われません(後述)。

ここが混乱する第一のポイントなのですが、ひとまずこのまま話を進めます。

抄本とは(本来の意味)

上記のように、「謄本」の本来の意味は「原本の写し」(コピー)ですが、これに対し、原本の一部を写したもの(一部分だけコピーしたもの)を「抄本」といいます。
これが「抄本」の本来の意味です。

(説明の便宜上、写しのうち、全部を写したもの=謄本、一部のみを写したもの=抄本、と分類しています。)

ただし、謄本と同様に、抄本という用語もまた現実には異なる意味で使われています
が、ひとまずこのまま話を先に進めます。

 

謄本の分類(正本・認証謄本・その他)

さらに、謄本(写し)は、正本、認証謄本、それ以外(認証のない謄本)の3つに分かれます。

正本とは

まず、その謄本自体に法的な効力があるのかどうかで分類されます。

 

謄本(写し)のうち法的な効力を有するものを「正本」といいます。
一般的には「謄本のうち、権限のある者によって作成された文書であって、法令によって原本と同一の効力が与えられているもの」と説明されます。

が、これを読んでどんな文書か想像できる人います?

要するに「原本の写しで、原本と同一の法的効力が与えられている文書」のことなのですが、初めてこの定義を読んで理解できる人はいないでしょう。
法律の専門家でも、上記の定義は知っていてもその意味をよく分かっていない人はいます。

※以下の解説は、特に興味のある方以外は読み飛ばしていただいた方がよいかもしれません。
とにかく正本が必要だと言われたら、謄本ではなく正本を取ってきてください。これだけ覚えていただければ問題ありません。

「原本と同一の法的効力が与えられている」というのはどういう意味なのか。
そもそも正本が作られる文書というのは、その前提として原本にも法的な効力がある場合に限られます。
原本に法的効力があるからこそ、その謄本(写し)にも法的効力を与えることができるからです。

そして、法的な効力がある文書というのはめったにありません。
例えば、借用書とか契約書、戸籍簿、登記簿などの文書それ自体には、特に何らかの法的効力があるわけではないのです。
(事実を証明する証拠としての意味があるにすぎず、文書自体が法的効力を発生させるわけではありません。)

これに対し、例えば我々の業務でよく登場する「判決正本」や「公正証書正本」の場合は、もとの判決・公正証書自体に「執行力」という法的効力(強制執行できる効力)があるので、その効力を謄本(写し)に与えるということができるのです。

なお、正本の形式についてですが、原本のコピーの一番最後に「これは正本である」とか「この正本は……原本に基づき作成した」と記載され、権限を有する人の記名押印がなされるのが一般的です。

長々と書いてしまいましたが、現実の場面ではこの理論的な意味を理解する必要はなく、とにかく「正本」というものが必要となる場合がある、ということだけ覚えていただければ問題ありません
繰り返しになりますが、正本が必要なときは、必ず「謄本ではなく正本をください」とお願いするようにしましょう。

もう一つの「正本」(正本・副本)

長々と語ってしまいましたが、実はさらにやっかいなことに、実務では「正本」という用語を上記とは別の意味で使うことがあります
(ただし、この使い方は、法律業界関係者の方以外には縁がないかもしれません。)

それは、「正本」と「副本」が登場する場面です。
例えば、裁判所や役所に対して何らかの申立てをする場合、申立書や申請書を提出する際に「正本と副本を提出してください」と言われることがあります。
訴訟を起こす場合には「訴状」という申立書を提出するのですが、この際、裁判所宛の「正本」と、相手方宛の「副本」を提出する必要があります。

ただ、前記の意味とは異なり、この場合の正本・副本はいずれも原本です
訴状(の原本)を裁判所と相手方の数の分だけ複数作り、うち裁判所宛のものを「正本」、相手方宛のものを「副本」と呼んでいるだけです。

行政庁における不服申立書の場合も同じです。
申立書を複数作り、うち1つを正本とし、それ以外を副本とします。

このように、「正本」という用語は2つの意味で使われますので、特に法律業界関係者は注意が必要です。

(※なお、さらにいうと「正本・副本」を「メイン・予備」くらいの意味で使う場合もあります。)

認証謄本とは

正本の話がずいぶん長くなってしまいましたが、次は「認証謄本」です。

前述のとおり「謄本」とは原本をコピーしたものですが、他人から見ればそのコピーがちゃんと取られたものかは分かりません。
一部を隠してコピーされたり、コピーを偽造されているかもしれません。

そこで、原本を管理している者が「このコピーは間違いなく原本と同じです」という認証をしたものが認証謄本です。

認証謄本は、一般的には「謄本のうち、権限のある者が原本の内容と同一である旨の認証をしたもの」と説明されます。

住民票や昔の戸籍などを取ると、例えば「この写しは住民票の原本と相違ないことを証明する」とか「この謄本は除籍の原本と相違ないことを認証する」などと記載され、市長や町長の記名・押印がなされています。

ところで、市役所に戸籍の謄本を申請する際には「戸籍の認証謄本をお願いします」などと言わないですよね?
普通は単に「戸籍謄本」と言い、それで通じるはずです。

あれ? 確か「謄本」とは単に写し(コピー)のことを意味するはずでは…
とお思いかもしれません。

しかし実は、実務の場面では、「謄本」という用語は「写し」という意味では使われておらず、この「認証謄本」を意味するのです。
一般的な用語の定義しか知らなければ混乱しますね。

とにかく謄本=認証謄本だと覚えておくことをお勧めします。

なお、一部分の写しである抄本も同様に、「認証抄本」という用語があります。
これも謄本と同様に抄本=認証抄本と覚えておきましょう。

「写し」とは

さて、先ほどの図をもう一度。

謄本のうち、正本でもなく認証謄本でもないものには特に名前がありません。
コピー機で自分でコピーを取ったものは、ただのコピーとしか呼びようがありません。

しかし、最後にやっかいなことに、この「ただのコピー」は実務上「写し」と呼ばれています
つまり、ある文書の「写し」が必要だと言われたら、それをコピーしたものを提出することになりますので、注意です。

 

まとめ

全体像の図をもう一度。

各用語の、本来の意味をもとにした分類ではこの図のようになります。

しかし、現実の実務では、それぞれの用語は以下の意味で使用されていますので、ご注意ください。

原本:もとのオリジナルの文書
写し:ある文書をコピーしたもの
謄本:役所が発行する認証謄本(※または全部事項証明書)
抄本:役所が発行する認証抄本(※または一部事項証明書)
正本:(1)役所が発行する正本 (2)申請書・申立書の原本のうちその役所に提出する分

例えば「戸籍謄本の写しを出してください」と言われたら、市役所で戸籍謄本(全部事項証明書)を取ってきて、それを自分でコピーしたものを提出することになります。

※戸籍簿や登記簿について、かつて「謄本・抄本」といわれていたものは、制度の変更により、現在では「全部事項証明書・一部事項証明書」に相当します。