購入した不動産に欠陥などの不備があった場合、売主がその不備について責任を負うことがあります。

この売主の責任を「契約不適合責任」といいます。

ここでは、まず契約不適合責任とは何か、また民法改正(2020年(令和2年)施行)前の瑕疵担保責任との違いについて説明します。

※以下、民法の条文はすべて現行の条文を示し、上記改正前の条文は「旧民法○○条」という形で表記します。

契約不適合責任とは(総論)

売買契約における「契約不適合責任」とは、引き渡された目的物が種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合の場合)に、売主が買主に対して負うこととなる責任をいいます(民法562条以下)。

契約不適合の典型的な例は目的物に物理的な欠陥がある場合ですが、欠陥は物理的なものに限られません。
また、法的な不備がある場合も含まれます。

債務不履行責任の一種

判例上、旧民法の瑕疵担保責任(旧民法570条)の性質は、債務不履行責任とは異なり法律上特別に定められた責任だと解されていました(※法定責任説)。

※正確には特定物売買に限った話ですが、ここでは不動産売買契約について説明する関係上、特定物売買であることを前提に説明しています。

一方、学説においては、瑕疵担保責任は債務不履行責任の一種とする説が有力でした(債務不履行責任説)。

令和2年施行の改正民法ではこのうち後者の考えを採用することとなり、瑕疵担保責任を債務不履行責任の一種と位置づけたうえで、関係する規定を整理したうえで改変しました。

これにより、瑕疵担保責任以外の担保責任も合わせて、契約不適合責任として整理されました。

買主は何を請求できるか

買主は売主に対し、目的物の欠陥や不備(契約不適合)の内容に応じて、

  • 追完(欠陥などがない状態にすること)の請求(民法562条)
  • 代金減額請求(民法563条)

のほか、通常の債務不履行の場合と同様に、

  • 損害賠償請求(民法564条、415条)
  • 契約の解除(民法564条、541条、542条)

をすることができます。

契約不適合とは

契約不適合とは、民法562条1項(下記)によれば「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」状態をいいます。

改正より新しい定義となりましたが、旧民法の瑕疵担保責任などの裁判例と重なる部分が非常に大きいと考えられますので、現在においても旧民法のもとでの裁判例が参考になるでしょう。

一般論としては、その目的物が通常備えるべき、または当事者が特に合意した品質・性能を欠いている状態、ということができます。

詳細は別のページにて解説します。

民法562条(買主の追完請求権)
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

追完請求

上記の契約不適合がある場合、買主は契約に基づく責任を完全に果たしていない(履行が不完全である)ことになります。

そこで、買主は売主に対し、契約不適合を解消して履行を完全なものにする(追完といいます)よう請求することができます。

追完の内容は、民法562条1項によれば、

  • 目的物の修補:修理をするなどして当該欠陥がない状態とする
  • 代替物の引渡し:欠陥のない代替品と交換(もっとも不動産売買の場面ではあまりないでしょう)
  • 不足分の引渡し:足りなかった分を追加で引渡す(同上)

とされています。

原則として、売主は、買主から請求された内容の追完をしなければなりません。
ただし、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は請求と異なる方法で追完する(例えば、代替物の引渡しを請求されたが修補で対応するなど)ことができます(同項ただし書き)。

なお、契約不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、買主は追完請求を行うことができません(同条2項)。売主の帰責事由は問いません。

代金減額請求

また、買主は、欠陥などの契約不適合の程度に応じて代金の減額請求(既に売買代金を支払済みの場合は(一部)返還請求)を行うこともできます。

その前提として、原則として買主はまず追完の催告(「○日以内に追完せよ」などの通知)をしなければなりません(民法563条1項)。
催告の期限を過ぎても売主が追完を行わない場合に初めて、代金の減額請求を行うことができます。

ただし例外として次の場合は催告は不要とされています(同条2項。下記条文を参照)。

  • 追完不能(1号)
  • 追完拒絶(2号)
  • 定期行為で期限徒過の場合(3号)
  • その他、追完の見込みがない場合(4号)

また、減額の範囲は「不適合の程度に応じて」となっています。
もっともその算定方法については解釈に委ねられており、基本的には契約不適合がない場合・ある場合の評価額や、修補に要する費用などの要素をもとに算定すると考えられますが、今のところ確立した解釈はありません

なお、追完請求の場合と同様、契約不適合が買主の帰責事由によるものであるときは、買主は代金減額請求を行うことができません(同条3項)。売主の帰責事由は問いません。

民法563条(買主の代金減額請求権)
1 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
 ① 履行の追完が不能であるとき。
 ② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
 ③ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
 ④ 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

損害賠償請求・解除

前記「契約不適合責任とは(総論)」の項で述べたとおり、旧民法の瑕疵担保責任とは異なり、契約不適合責任は債務不履行責任の一種とされました。

そこで、契約不適合の場合にも一般の債務不履行の場合と同様、

  • 債務不履行による損害賠償請求(民法415条)
  • 債務不履行による契約の解除(民法541条、542条)

の規定が適用されることが明確にされました(民法564条)。

したがって、契約不適合がある場合、買主は前記の代金減額請求権とは別に損害賠償を請求することができますし(売主に帰責事由がない場合を除く)、催告によってもその不適合が追完されない場合には売買契約を解除することもできます(不適合が軽微な場合を除く)。

民法564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

契約書の規定が重要

改正後の民法のもとでは、目的物に欠陥などがある場合にはそれが契約に適合しているかどうかが最初の争点となります。

そうすると、裁判所としては当然「どういう契約だったのか」、もっといえば「契約書にどう書かれているか」に注目することになります。

したがって、契約書の記載が今まで以上に重要になる点には注意が必要です。

さらに、改正後の民法のもとでは代金減額請求と債務不履行による損害賠償請求との関係や、違約金条項があった場合の適用関係など解釈が確立していない部分が残っています。
そのような点については今後の裁判例の集積を待たなければなりません。

この意味でも、契約書の条項をどのように定めるかには注意する必要があります。

 

瑕疵担保責任(旧民法)について

ここで、旧民法における瑕疵担保責任(旧民法570条。条文は下記)についても簡単に紹介します。

旧民法570条、566条によれば、売買目的物に「隠れた瑕疵」があった場合、買主は契約の解除(目的が達成できない場合に限る)または損害賠償請求ができるとされていました。

瑕疵とは、目的物が通常有すべき品質や性能を欠いている場合をいいます。
典型的には物理的な欠陥(物理的瑕疵)があるような場合ですが、法律上の制限などの問題(法律的瑕疵)や心理的瑕疵、環境瑕疵など物理的でないものも含みます。

※なお、改正前の「瑕疵」の判断と改正後の「契約不適合」の判断は、大きくは変わらないものと考えられます。

また「隠れた」とは、売主がその瑕疵を知らず、かつ知らないことに過失がないこと(善意無過失)をいうとされていました。

さらに、前述のとおり、瑕疵担保責任は債務不履行責任ではなく特別の法定責任だというのが通説でした。

そのため、

  • 売主に帰責事由がなくとも売主は瑕疵担保責任を負う
  • また、損害賠償の範囲は(一般の債務不履行とは異なり)信頼利益(※)に限る

とされていました(これらの点は改正により変わりました)。

※契約が有効なものと信じたことにより生じた損害。ここでは瑕疵がない状態との差額を意味します。
実質的には代金の減額(一部返還)と同じような結果になります。

その他、旧民法での瑕疵担保責任については別ページにて詳説します。

旧民法570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

同566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
1 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。