不動産の売買契約はいつの時点で成立するのでしょうか。
契約は一般的に口約束でも成立するとされています。そうすると、売主と買主の間で口頭で合意した時点で契約が成立するとも思えます。
しかしながら不動産売買契約では、基本的には売買契約書の作成の時点で契約が成立するものとされています。
口頭での合意のほか、買付証明書・売渡承諾書の取交わしがあったとしても、基本的にはその段階では契約は成立していないとされています(ただし、契約成立前であっても損害賠償請求の余地はあります)。
問題点
不動産の売買について交渉を重ね、代金などの条件が概ね合意されたとします。
しかし、いよいよ正式に売買契約書の取交わし、という段階で売主が翻意し急きょキャンセルとなりました。
この場合に、買主は契約の成立を主張し所有権を得ることができるのか(あるいは違約金など損害賠償の請求ができるのか)という話です。
法律上の原則は、口頭でも契約成立だが…
法律上、契約が成立するには申込みと承諾があれば十分です(民法522条1項)。
また、特別に法律で定めがない限り合意の方法には制限がありません(同条2項)。必ずしも契約書などの書面でなくとも、メールや口頭でも問題ありません。
つまり「口約束でも契約が成立する」というのが一般的な原則なのです。
(これに対し、例えば保証契約や定期借地契約などは、法律の規定により必ず書面で契約しなければならないと定められています。)
不動産の売買契約も、法律上は契約方法に定めがありません。
そこで、冒頭にも記載したとおり口頭でも売買契約が成立するとも思えます。
裁判例では、契約書作成時点で契約成立とされている
しかしながら、裁判例では、口頭の合意があったにすぎない場合には基本的には契約の成立は認められていません。
一般に不動産は高価で重要な財産と考えられていることや、不動産売買取引の慣習などに照らし、契約が成立するのは原則として契約書作成時点とされています。
買付証明書・売渡承諾書の交付ではダメ
では、買付証明書や売渡承諾書を取り交わした時点ではどうでしょうか。
これらの書面の内容はまさに「買います」「売ります」というものですから、これらを取り交わすことによって契約が成立するとも思えます。
しかしながら、裁判例ではこの時点ではまだ契約が成立しないとされています。
通常は、その後に契約の諸条件を交渉して詰めたうえで、最後に売買契約書を作成することが予定されている(つまり契約書作成段階までは確定的な意思表示を留保している)といえるからです。
協定書・仮契約書・覚書など
少し大きなプロジェクトなどになると、契約書以外にも協定書・仮契約書・覚書などさまざまな名前の書面が取り交わされることもあります。
もちろん書面の内容にもよりますが、後に正式に売買契約書を作成することが予定されているのであれば、上記書面の取交わし時点ではまだ契約が成立しないとされています。
結論
したがって、不動産売買の場合には基本的には売買契約書の作成まで進まないと契約が成立したとはいえず、それ以前に破談となっても、相手方に契約に基づく請求をするのは難しいでしょう。
もっとも、それまでの交渉状況いかんによっては、交渉の不当破棄が「契約締結上の過失」として相手方に損害賠償を請求できる場合があります(こちらのページをご参照ください)。